まだ先師が存命だった頃のことですが、鳥取県の霊峰大山の大神山神社に参拝に参りました。
鳥取県の大山は修験道で有名な霊峰で修験道者が修行した痕跡が各所に残されています。大山の麓に到着すると、もうすでに初冬で雪がチラついていて人はいませんでした。
私たちは車を降り、大山の麓の大神山神社に参拝するため、誰もいない参道を歩いていくことにしました。
先師はすでに高齢であったため、参道の茶屋の前に置いてあるベンチで休むことにして、神社へは私たちだけで参拝することになりました。
大神山神社の神々がお出迎え
先師が茶屋の前のベンチに腰掛けてボーっとしていると何やらゾロゾロと動く気配を感じたので目を上げました。目を上げた先に見えたのは、大神山神社の参道に沿って、蛇の姿に衣冠(平安時代の貴族装束)を着衣された神様で、笏を持ちながらぞろぞろと出で立ち始めている光景でした(もちろん普通の人には見えません)。

普通の人が驚く光景でも、先師にとって見れば、よくあることで見慣れているので、
「おや、神様がたくさんお出ましになるので何事かでも始まるのかな?」
と思い、そのまま見ていました。
数え切れないほどの神様が出て来た後、その神様たちは貴賓を迎えるかの如く道の両側に向き合って並び始め、その列はついに大山の頂上まで至りました。
そして無数の神様が整然と山の頂上まで並び終わった後、ひときわ巨大で立派な蛇の神様がとぐろを巻いて山の頂上に鎮座されました。そしてその立派な神様は山の頂からベンチに座る先師に向かってこう述べられました。
「わしがこの山の神々の長じゃ。」
「お前についている大いなる神を迎えるために大山の全ての神々と眷属が迎えにあがった。」
しばらく経つと、先師の周りに、たくさんの狐達がぴょんぴょんと跳ね回りながら現れ始めました。
先師は、その狐たちがガヤガヤと喋って大変うるさいので、何の話をしているのだろうとその狐たちの会話に耳を傾けてみると、こう言っているのが聞こえてきました。
「誰だ誰だ?誰が来たんだ!?」
「ふーん、大山の神様が総出でお迎えにあがるから、どんな人間がくるのかなと思って皆で来てみたけど、ただのお婆さんだねぇ」
そして別の狐はこう言ったそうです。
「あーあ、せっかくここまで来たのに損したなぁ」
先師はそれを聞いて、おやおや、何と口の悪いお喋りな狐達なのだろうと思いました。
そう思った矢先、狐たちの悪口を近くで聞いていた衣冠姿の神様がその狐達に向かって、
「静かにせい!この物見高いきつねどもめが!!」
と叱りました。
神様に突然厳しく叱られた狐達は驚き、シュンとなりながらおとなしくなったそうです。それを眺めていた先師は、お調子者の狐が叱られおったわとクスクス笑いました。
後で先師からこの話を聞いた私たちは、童話に勝るとも劣らない不思議な話があるものだと思い、目に見えない奥深い神の世界にただただ感服しました。
(終わり)


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